近年,「癒し」をテーマにしたCDが多く製作・販売されている。誰もが疲れきった時代状況と世相のようなものを反映しているのだろう。
この1枚もそうしたカテゴリーにいれらることが多い。しかし,私は,単なる「癒し」や「逃避」ではない真の安らぎの音楽をこのCDの中から見出すことができる。
このCDを聞く人は,ゲーンズボロやターナーのような英国の画家たちの風景画を思い浮かべるかもしれない。
かつて恋人と一緒に歩いた公園や野山を思い出すかもしれない。
グリーンスリーブスのメロディやトーマス・タリスの旋律に目のあたりがちょっと熱くなってしまう人もいるかもしれない。
それは,ある種のほろ苦さを伴うものだ。
しかし,単なる甘えのための音楽ではなく,人生の節目を過ぎて成熟を迎えた人々にとっての真の安らぎを感じさせる音楽がここにはある。それは,隠し味として甘さとは対照的なものが満遍なく溶け込まされているものだが,そうした隠し味があってこそ人にとって本当に大事なものの意味を知ることができるのだろう。
マリナー指揮によるアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズの演奏は,これらの曲の数ある名演奏の中でもとびぬけて秀逸なものではないかと思う。