ヌードの夜 ニューマスター・デラックス版

ジェネオン エンタテインメント2008-03-21 - ジェネオン エンタ... 価格 ¥ 3,039
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ヌードの夜 ニューマスター・デラックス版

ジェネオン エンタテインメント

価格(new/used): 3,039 円 / -- 円 より
発売日: (2008-03-21) アマゾン売上ランキング: 23823 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 5.0 / 総数: 1件

石井隆の根幹
余貴美子さん演じる名美は根津甚八さん演じる男の横暴に愛想が尽き果て、もういい、もう別
れてしまおうと決心して無謀な完全犯罪を企てます。そこに巻き込まれた代行屋の竹中直人
さんがいつしかこの名美に強く惹かれてしまい、どうにかして彼女を救えないかと悪戦奮闘
するお話です。幾つかの“人が人を愛する想い”が並行して絡み合いながら物語を綾織るので
すが、結局のところこの映画も他の石井作品と同じように “記憶の鎖”にがんじがらめになっ
て幕を降ろすことになります。

現代を生きる女性にとって男なんて幼稚でメンドクサイ存在は、実際のところは居ても居なく
ても平気なのかもしれません。失恋や離婚、伴侶との死別を経た後、決して過去を振り向かず
に歩いていけるエネルギッシュな存在ですよね、女性って。抑圧されてきた本来の自分らしい
自分を取り戻し、はつらつとして人生を謳歌する、真っ向から日常をとらえて闘ってもいく。
そんな“生きる力”を面前とすると素直に敬服してしまいます。素敵だなと思います。しっか
りと歩道を踏み締めて歩いていく細くしっとりした背中と髪に目を細め、声援を送りたくなる
ことがしばしばあります。これに対して石井監督の映画に描かれる“名美”というおんなはど
ちらかと言えば古風で、気持ちを整理するのが滅茶苦茶に下手です。その点を突いて男性の
勝手な理想像を追い求め過ぎている、見ていてイライラすると打ち明ける方もいます。

しかし、わたしみたいな優柔不断で不器用な者には己のこころを映す鏡のように感じられて、
その試行錯誤を繰り返していく“揺れる思い”にかえって落ち着くんですね。私生活でもそう
いった人の方が性別を越えて交感を覚えます。石井監督もそうなんでしょう。常に主人公は
内省的で、誰もが、悪党ですらも思慮深く真面目です。“女々しい”という言葉は今では誤解
を招きかねない表現ですが、そうなんですね、石井隆の男もおんなも本当にどうしようもなく
“女々しい”し、どこまでも生真面目に性愛を捉えて悩みます。

遠くに別れて行ってしまったはずの“あいつ”が、どこまでも名美につきまとって離れない。
それをブラックな笑いをともなう“現象”として映画は描くのですが、当然ながら彼女
“名美”の深層心理を石井監督はうまく顕現しているのですね。“忘れられない、別れられな
い”という思いを抱き、“あいつへの憧れ”を最後にそっと囁いて、名美は海へと向かって
走ります。なんて不器用で情けないおんなかと思います。裏表を作れない素直すぎる人間の
哀れが滲みます。

打算的な恋愛しか出来ないくせに本当はピュアな人、胸の奥に繊細なこころの洞窟を持ってい
る人ほど、この雨降る埠頭のシーンに気持ちを鷲掴みにされると思いますし、全篇に渡る光と
影の奥深さに胸打たれるでしょう。最近の裸体乱舞の石井作品だけを観て、それを鵜呑みにし
てしまうと勿体ないです。『ヌードの夜』に在る魂の軌跡こそが石井隆の根幹だと感じます。
未見の方は絶対に観たほうがいいに決まっている、そんな傑作だと信じています。