ずっと気になってはいたものの、デビュー作『二十才の微熱』に漂う弛緩ぶりが引っ掛かってなかなか観る気になれなかった(『二十才の微熱』もとてもいい作品なのですが)。ところがどっこい、観てみるとデビュー作から見違えるほど出来がよくなっている。両作品を観た人は解ると思うが、物語の構成は『二十才の微熱』とどこか似ている。ナイーブで誰に対しても優しい主人公の男性と、彼と恋愛関係(または片思い)にあるゲイの男性。その二人の世界に、奔放で感情表現のストレートな女性が割り込んでくる。奔放な彼女に振り回されつつ、主人公の気持ちにも徐々に変化が生じる・・・といった具合。
両作品を通じて橋口監督が伝えようとしていることは極めてシンプルだ。①「ありのままの自分を受け容れ、自分を偽ることはやめなさい」、②「ありのままの自分を晒け出すことで生じる葛藤や軋轢はすべて自分で引き受けなさい」ということに尽きる。そういう意味で極めて倫理的な作品だと思う。現代社会では「自己決定」の名の下に①ばかりが幅を利かせがちだが、②を伴わない自己決定は「身勝手」としか呼ばない。
カミングアウトすることで多くの軋轢を免れ得ないが、かといって誰一人として理解してくれない訳でもない、という今のゲイの受け容れられ方のバランスが、①と②の倫理観を提示するのに非常に適しているんだと思う。というより、橋口監督だからこそ、そういう倫理観を獲得できたのだと云った方が正しい。そして、②をきちんと主張しながらちっとも説教臭くならないのは、やはり橋口監督の手腕だろう。全体としてはコミカルタッチなので肩肘張らずに観ることができる。
片岡礼子の演技は、『二十才の微熱』の頃から著しく成長していて驚かされた。