比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・...

ベネディクト アンダーソン - 作品社 価格 ¥ 6,090
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比較の亡霊―ナショナリズム・東南アジア・世界

ベネディクト アンダーソン
作品社

価格(new/used): 6,090 円 / 11,471 円 より
発売日: (2005-11) アマゾン売上ランキング: 228140 位
単行本 / 通常24時間以内に発送
[ユーザーによる評価] 平均評価: 3.5 / 総数: 2件

東南アジアに対する常識のひっくりかえし
本自体は600ページもある大部であるが、内容は単独の著作ではなく、ベネディクト・アンダーソンの論文集である。一部には東南アジアの文学評論が含まれ、原作を知らないと読みにくい部分がある。代表作「想像の共同体」ほどのインパクトは無い。具体的事例を積み上げた東南アジア地域社会論集である。
ただ、ベネディクト・アンダーソンの指摘は独自で興味深いものが多い。例えば彼の指摘によれば「東南アジア」という地域概念はたかだかこの戦後のものであるとのことである。一般常識的にはもっと歴史的経緯のある地理的概念と思われているだろう。
ところが言葉としては1943年にインド総督ルイス・マウントバッテンが「東南アジア軍司令部(South-East Asia Command)」を創設したのが初めである。それも対象エリアは英領インドの東北部からセイロンまでで、現在のエリアの定義とは明白に異なる。
現在の地理的定義はむしろ第二次大戦時の日本軍の占領エリアを対象としたというほうが適切か。「東南アジア」の社会・文化的一体性は過去に一度も成立していないと彼は書いている。また定義の矛盾点として、例えば西部パプアニューギニアは東南アジアなのに、東部のパプアニューギニアが東南アジアではなく、歴史・文化・気候的に近いスリランカがASEANへの加盟を拒否されるようなことがある。『東南アジア』という概念は極めて政治的・人為的定義である。
眼からうろこのような指摘であり、こうした点を知るだけでも読む価値があるかもしれない。
比較の政治経済学
ベネディクト・アンダーソンは主張「想像の共同体」で、やや誤解されることになったように思う。別にナショナリズムが「共同幻想」であるかのように言っているわけではないのだ。本書の題名「比較の亡霊」も、ややもするとそうした勘違いを生みかねない。一言で言えばナショナルな同一性は他者(他国)との比較の上で立ち上がってくるということなのだが、それよりも本書の面白いところはフィリピン、タイ、インドネシアの政治経済的比較である。各々の歴史的経路に内在しながら共産主義運動、冷戦、経済開発といった普遍的なテーマのあらわれかたがどう違うのか、それが多言語を駆使できる人ならではの視角で論じられていく。彼はタイのテーチャピーラの言葉を引用している「(タイの)文化的抵抗は、共産主義とタイ文化とを摩擦を感じつつ結び付けようとした長きにわたる努力によって練成され、かたどられてきた」。そしてアンダーソンはベンヤミンの歴史の天使をひきつつこういう「近代の過去―その中心部分であった共産主義を含めてーは、その深みから再審され、審問され、可能な場合には回復されなければならない…サタジット・レイのことばを借りるのなら、頭上の遠い雷に耳をすましながら」。言葉の裡には、いわゆる欧州「リベラル」には決してないような、東南アジアへの内在、解放ナショナリズムとそれと練成された共産主義運動への批判的共感がある(もちろん、日本帝国主義についてはバッサリ断罪している。アジアを知らずに「解放戦争」を肯定する日本の反「自虐史観」派も、そういう主張をするのなら少しはこういう本を読んだらいいのでは)。


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