人間中心主義が目立つ。人間たちが望むとおりにラスカルを動かしているのではないかと感じた。人間が悲しみに打ちひしがれたとき、ラスカルはいじらしいしぐさを見せる。動物は人間の気持ちを理解できると言う主張を否定はしない。けれどもあまりにも都合が良すぎで、非現実的であると私は思った。そもそもあらいぐまは現実に本書が語るような行動をするのか疑問である。しかし、最終的にはラスカルは自然に戻る。人間中心主義「である」とは言わせないこの点は評価できる。 スターリングは「森に帰るのがラスカルにとって幸福なのだから...」と言う。そしてスターリングも中学に進学し、大学を目指すことを自らの「幸福」とする。これで物語りは終わる。この部分は現在の我々にあることを語りかけていると私は思った。すなわち、「僕(スターリング)はラスカルと別れて、中学校に行くことを僕の『幸福』にしたけれども、では読者の皆さんにとって『幸福』は何ですか」とスターリングが読者に問いかけているようであった。我々にとって「幸福」とは何であろうか。
現在世界を見てみよう。権力者Bとその仲間たちは権力者Sを明晰判明な証拠もなく「脅威」と言うレッテルを貼って捕虜にした。権力者Bたちはこれで世界は「幸福」になると言っている。
いくつか疑問がわく。本当に権力者Sは「脅威」であったのか。「幸福」を享受する世界とは一体誰のことか。そしてこの「幸福」の獲得の仕方は正しかったのか。
少々固い話になってしまったが、私たちの「幸福」とは何であろうかと考えさせてくれた一冊であると私は思う。