ユーカラの人びと 金田一京助の世界1 (...

藤本 英夫 - 平凡社 価格 ¥ 1,260
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ユーカラの人びと 金田一京助の世界1 (平凡社ライブラリー)

藤本 英夫
平凡社

価格(new/used): 1,260 円 / 990 円 より
発売日: (2004-04-08) アマゾン売上ランキング: 320398 位
単行本 / 通常24時間以内に発送
[ユーザーによる評価] 平均評価: 5.0 / 総数: 4件

ユーカラクルとの交流録
本書は金田一京助の随筆の中から、アイヌ語研究に関するものを集めた一冊です。
学術的な内容ではなく、彼の研究を巡る人々との交流史と言ってよいでしょう。
ことに、彼に多大な影響を与え互いに響きあった知里一家との出会い「近文の一夜」は繰り返し劇的に語られます。
「アイヌのホメロス」と称えた紫雲古津のワカルパ翁とのエピソードや、コポアヌ婆さんとの交流もまた然りです。
生前の金田一氏は、女性的な優しさを持ちながら、同時に熱情的な口調の持ち主であったと言われます。
本書の文体からは、それがそのまま伺われる気がします。

とはいえ、行間からはアイヌ語研究にまつわる苦労も伺われます。
まだ貧窮していた金田一家を訪れるアイヌの人々に対する彼の家族の感情や、
習俗の違いから来る誤解など、直接的には語られないものの、現実には美しい話だけでなかったことは分かります。
金田一氏の研究に、様々な批判があることも知っています。
人の死の局面に臨んで、なおユーカラの採録に努めようかという姿勢に疑問を呈する人もあるでしょう。
「近文の一夜」のエピソードも、人によっては非常識と映るでしょうし、知里幸恵に語った言葉もまた、意見があるに違いありません。
現在の観念からすれば適切でない言葉使いや表現が、文中に数多く含まれているのも事実です。
しかし明治から昭和にかけての通念が今と同じである筈がなく、
逆にそこまで時代から飛躍してしまっていれば、彼の研究もまた成果を挙げられたか、どうか。
アイヌの口承文芸である「ユーカラ」の価値が認められたのに、彼の貢献がいかに多大であったことか。
知里幸恵の日記を読んだことがあります。そこには溢れるような金田一氏への尊敬の気持ちが綴られています。
私はできれば、それを信じていたいと思います。
「心の小道」をめぐって
 アイヌ研究の途上出会った人びとのことを中心にした随筆集である。「何」というアイヌ語「ヘマタ」を知ってからアイヌ語採集の幅を広げていく様子が描かれ「心の小道」と改題され中学校国語教科書にもなった。「盲詩人」の主人公・ワカルパは金田一アイヌ学には不可欠の一人。知里幸恵・真志保姉弟がつながる叙事詩人の名門・金成家もワカルパと同系であることが語られている。
 最後に載せられた講演記録「心の小道をめぐって」が最も金田一京助の全貌が集約された自伝になっている。
 大学で言語学を専攻し地元に近いことで、アイヌ語と日本語の関係を担当することになった。北海道を手始めに、カラフトアイヌを本格的に調査するようになる。ことばこそ心と心をつなぐ小道だという考えに到達する。やがて、アイヌのホメロスとも言うべき叙事詩ユーカラ三千行の採集にかかる。生活難の中にも、友人石川啄木の下宿料を払ってやったりしたこともあったという(雅)
イランカラプテ
金田一京助の出合ったユーカラにまつわる人々について書いた随筆を集めた本です。ユーカラで使われているアイヌの古語を採取するため、樺太に渡るが、言葉が通じないためだれにも相手にされず、途方にくれてしまう。自分が描いた絵に子供達が興味をしめすので、目やまゆげを書くと口々に指差してしゃべりはじめたので、最後にグルグル線をひいてみせたところ「ヘマタ」と口々に言い出したので、「何」という単語がわかり、言葉が通じ始め採取に成功する。という有名な「心の小経」をはじめ様様な随筆がのっています。どの文章も、ユーカラを教えてくれた人たちに対する感謝の気持ちがあふれていて読んでいて心温まるものでした。著者の発音するきれいなアイヌ語にふれて、うれしそうにするアイヌの人たちの様子。言葉が通じたことを喜び 子供達といっしょにぴょんぴょん飛んで笑ったときの楽しい様。横たわって、自分のわき腹をたたきながらユーカラを唱え始めたのに感激した話。著者が「心の小経」というタイトルをつけたのは「言葉によって心が通い合うことができたことを例えたのだ」ということがですが、読んでいるとそれがしみじみ伝わってきます。ユーカラを意味がわからないまでも、発音をローマ字でノートに書き取っていったところ、「真ん中がどのページもひとりでに、すーっとあいている」それを見て、ユーカラが叙事詩であることに気がついたといった件など、著者の好奇心と研究熱心な様子や発見の喜びが伝わってきて楽しい本でした。

とくに「アイヌをにっこりさせる一言」と副題がついた「イランカラプテ」という文章が楽しかったです。道や畑で著者に笑いかけるアイヌの人々の描写がほほえましく、本を読んでいてこちらもにっこりしてしまう暖かい随筆でした。

金田一京助が出会ったユーカラの人びと
21世紀の現在、アイヌといえばユーカラが思い浮かぶのは自明だが、そのユーカラを「発見」したのが金田一京助であった。アイヌは昔も今もユーカラを謡っていたが、それが叙事詩であることに気づいた最初の人間が金田一京助であった。
その発見の過程や、そこからアイヌ研究に人生を賭ける決心をする過程が興味深い。官僚風な服装から部落へ行っても警戒され話も出来ない状態から、会話をしアイヌ語を書き取るまでに至る過程は、関心を引く。
この本人は、何人ものアイヌの人びとが登場する。ユーカラ名人のワカルパ、金城マツ、知里幸恵、名寄や樺太のアイヌの人びと。私が興味を持ったアイヌは、コポアヌ婆さんである。明治の時代に、家族不和から家出のような形で上京したことをきっかけにその後8度も上京し、そのたびに稼いでおみやげをたっぷりもって帰る婆さんである。そのたくさましさが読んでいておもしろかった。
★一つ減点したのは、この本は雑誌や新聞の記事などをまとめたものであるため、同じ人物の説明が何度も出てくることである。繰り返しの説明のためくどさがあるが、本の性質上、これは仕方のないことだろう。ただし、各記事から表れる金田一京助氏の人柄、研究姿勢、アイヌの人びととの関わりを知るにはよい本かと思う。