甲骨文字に歴史をよむ (ちくま新書)

- 筑摩書房 価格 ¥ 756
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甲骨文字に歴史をよむ (ちくま新書)


筑摩書房

価格(new/used): 756 円 / 500 円 より
発売日: (2008-07) アマゾン売上ランキング: 69089 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 5件

権威を批判する自由を
まず、この本の何よりの価値は、白川静も含めた既存の大家たちをきちんと批判していることだ。批判というのは誹謗中傷とは違う。学問的な成果とユニークな発想を正当に評価した上で、科学的に問題点を指摘する、という、いわば学者として当たり前の行為だ。

ところが世の中はなかなかそうはいかない。白川静の説は、非常に大胆で独創的なことは認めるが、メディアはあたかもそれが定説として確立したかのように扱う。そして、批判を許さないような雰囲気が世間にまん延する。そんなことは白川氏も望んでいないだろう。

著者の前著「甲骨文字の読み方」は、大学一年生の教科書かと思うほど、まじめに一般読者に甲骨文字を読ませようという力みに満ちた一冊だったが、それゆえに少々かったるかった。本書は適度に力が抜けて、教養と知的好奇心を適度に刺激するつくりになっている。

殷代、周代の歴史に関する解釈に少々牽強付会なところは感じる。それから、日本語を愛する者さんが書いておられるとおり、生物としての亀への致命的な誤解は、早めに訂正されるべきだろう。とはいえ、最先端の学者が甲骨文字からどう歴史を読もうとしているか、ということが十分理解できる。中国古代史や古代文字学に興味がある人は、漢文や中国語の素養がなくても一読に値する本だと思う。
後半は,うまく書けているとはいえません.
 新進気鋭の若手のその意気やよし,とは言える作品である.
 タイトルの「甲骨文字に歴史を読む」はうまくできている.甲骨文字は,本来は,歴史を記すための文字ではないので,それを使って歴史を読む,というタイトルは,パッと見た客に斬新でかつ,ワクワクするような興味を抱かせる.いままでの資料ではわからなかった新しい真実が,甲骨文字からわかるのだー,という感覚を持たせることができる.まことにうまいと言えよう.そして,前半の甲骨文字の解説は,確かに素人でもわかりやすく,有用である.
 しかしながら,後半の「歴史を読む」ということに関しては,成功しているとは言い難い.

1)まず,ところどころに挿入されている「コラム」に問題がある.p.63「実際のカメには,鋭い爪はないが」,p.64「亀には尾もないが,これも殷人の誤解であろう.」と書かれている.著者は,生きたカメを見たことがないのであろう.亀には鋭い爪もあり,尾もある.殷人の誤解どころか,著者の誤解である.p.146の「適度に弱い統治こそが安定した王朝になりうる」というのも,どうだろうか? 著者の主張と学問的な事実とは異なる.このような主張を、新書で述べるのは,いかがなものであろうか?しかも,このページでは,なりうる,と可能性を示唆しているだけだが,p.214では「安定する」と言い切りになっている.自分で前もって言った言葉を徐々に強化する,という論理の展開は,納得しがたい.
2)p.122から始まる,著者のいう「思考実験」というのがよくわからない.こんな数字のお遊びが,なぜ,墓の建設が公共事業であることを理解するのに有用なのであろうか.しかもこれは,「実験」ではない.また,ここで,メンデルスゾーンのピラミッドの話がなぜ,でてくるのかもわからないが,その引用が,和訳(p.224)というのもどうだろうか。「一次資料に当たることが,歴史の真実を知る第一歩である」という主張から,甲骨文字の重要性を唱えている著者が,一次資料を引用せず,単なる和訳を引用文献にあげているのは,どういうことであろう?
3)極めつけは,p.209から始まる,酒器の数の推移による酒池肉林説の否定である.確かに,著者の集計では,殷後期IIIでは,酒器は358器,出土しているのが,西周I期で420器出土していて,ほとんど変化はない.この数字の変化を根拠に,「殷が滅びた後に,酒器が急に減ったのではないから,酒池肉林説は否定できる」という論理の展開がなされるのである.これはもう,お笑いの域であろう.酒器と酒の量が必ずしも比例するものではないし,この程度の数字が,統計学的にどれほど意味があるか,著者は理解しているのであろうか.

 本書を貫いている思想は,史記などに根拠をおく,先代の歴史学者に対する批判である.
なにゆえ,先行研究にそれほどまでの憤りをもつのか良くわからないが,p.217の「おわりに」には,「先行研究との戦い」という副題まで付いており,そうとう根深い.
 このような先行研究批判は、分野を問わず,若手研究者によく見られる.しかし,著者が先行研究を批判して,新に打ち立てた学説とはなんだろうか?殷の最後の王,帝辛は暴君ではなかった,という説は,なにも著者がはじめてではない.加藤徹氏の日本語の著作「貝と羊の中国人」(2006年6月)のp.14でも述べられていることである.本書がそれほど,オリジナリティーに富んだ画期的な著作とはとても感じられない.

 「本書を読んでいただいた方々が,殷代史学の最先端の情報を持っている,ということになるだろう」(p.227)という不遜なまでの書きっぷりを,「正当である」と読者は感じられるのであろうか?
甲骨文字・金文資料から殷の社会と歴史を探る、現時点での最先端の研究成果
私はこれまで、陳舜臣氏の本、講談社現代新書の中国の歴史、宮城谷昌光氏の小説からしか殷の知識を得ていなかった。本書は、史記等の文献資料に依拠する常識に対して最先端の新説を甲骨文字・金文資料の読み込みに基づいて提示し、読み終えて知的刺激に興奮する良書である。史記等の殷滅亡後数百年たってから書かれた文献資料が権威となったのは殷本紀の系譜と甲骨文字から解読された系譜がほぼ一致したからだからだが、本書はその不一致点を丹念に検討して殷の歴史の真相に迫る。

本書は3部構成。第一部は甲骨文字の読み方を豊富な資料写真とともにわかりやすく解説する。著者は「甲骨文字の読み方」という私は未読の本を上梓しており、甲骨文字の起源・文法はそちらの方が詳しいかもしれないが、本書は殷の社会・歴史の実相を探る第二・三部でも、根拠となる甲骨文字・金文資料とその読み方を丁寧に説くので、古代文字に関して十分な知識を得られる。原則として字体の左右が反転しても同じ字であること等を初めて知った。漢字に関心のある市井の人の知的好奇心を満足させるだろう。第二部・文明と社会では、殷の社会は奴隷制ではないとする。その他、殷の時代の時の観念や祭祀等、興味深い事項だらけ。数や時刻を表す甲骨文字はここで詳説される。

本書の白眉は、殷の王の系譜は誰が、何の目的でどのように改竄したのかを丹念に合理的推理も交えて論証する第三部。酒池肉林等、帝辛の暴虐は周のプロパガンダであった、帝辛の父・帝乙は実在しなかった、殷の遺民とされる宋は殷代からあった殷の系譜とは無関係の集団であり、斉も殷に服属していた集団であったとの指摘は鋭く、斬新だ。では何故殷は滅んだのか、そもそも長く続いたのか、系譜を操作したのは誰かは本書を読んでのお楽しみ。殷についての認識の転換を迫られるのが小気味よく、宮城谷作品「王家の風日」等のファンは必読の書だ。
殷の歴史がここまで推測できる、ということのすごさ
甲骨文字で書かれた古代中国の文章から、殷代の社会の姿を読み解いていく、という趣旨の本。
だが、同著者の前著である『甲骨文字の読み方』を読んだ人間にとっては、どうも同じような内容に思えてしまい、驚きや新鮮味などはかなり劣ってしまう。

もっとも、あの本は甲骨文字のしくみについて相当ディープに踏み込んだ本だから、より気軽に甲骨文字のことが知りたい、殷代の中国の姿をのぞいてみたい、という人には、こちらの本の方がお勧めということになるのだろう。

個人的に、むしろ興味深かったのは後半。
前半とはちょっと趣が異なり、『史記』などの文献資料にばかり頼って歴史を読み解こうとする歴史学者を痛烈に批判しつつ、甲骨文字という一次資料を使って著者が導き出した殷の系譜や殷滅亡の真実を説く、という内容になっている。

抑えた筆致ながら(いや、そうでもないか?)、考えの凝り固まった学者たちを批判しつつ持論を展開する様はなかなか興味深い。
正直、門外漢には何が正しいのかよくわからないというのが本音だが、限られた一次資料の点と点を結び合わせて、なるほどと思わせる仮説が立てられていく過程は、非常に興味深いものがある。

まさに、歴史研究の面白さを味わわせてくれる一冊だ。
殷朝最後の王、紂に悪逆な酒池肉林の証なし
殷王朝は、黄河中流域に、前期(二里岡文化)がBC16-13世紀、後期(殷墟文化)がBC13-11世紀にありました。「尚書」や「詩経」を土台にしてBC1世紀に書かれた「史記」中の「殷本紀」が、従来の殷史研究では権威あるものとされ、その内容が踏襲されてきたそうです。

殷代後期の発掘出土資料を見ると、亀の甲羅や牛の肩甲骨を、4mm程度の薄さに削って火に焙り、ひび割れを調べ、祭祀・穀物の収穫などを占う骨占いの盛行が判ります。占った内容を、甲骨文字で刻んだ刻辞のある骨が、残っています。著者は、この刻辞を、史記などの文献より確かな原資料と考え、新に殷史を再構成しています。

○温暖で多雨な自然環境。象もいました。○黍の耕作や牛豚の畜産などの産業。○祭祀用の青銅器作成。○数千人規模の土木事業。○数字を使用。暦を作成するための天体観測。○先祖神と自然神、その上に帝がいた多神教。自然神は、河(豊作)、岳(雨乞い)、土、雲、風(鳳凰)、竜(蛇)だった。○奴隷(角飾りをつけ辮髪の「羌」)や動物を犠牲にした祭祀。○青銅器に鋳込まれた饕餮「とうてつ」模様や発掘された子安貝に見られる呪術的信仰。○王は、祭祀権・軍事権・徴税権・人員徴集権(公共事業)を持ち、ゆるい統治で、地方をも間接支配していた。などなど甲骨資料からわかる殷代の特色です。

甲骨文中の王名と史記の王名とを比較。甲骨に、史記中の王、中壬・沃丁・廩辛はなく、逆に祖己という王を発見した島邦夫の説を紹介。著者は更に前進、史記では、帝辛(紂王)の前王とされている帝乙が、甲骨ではなく、殷滅亡後の周代に、編集されたと考えています。又殷は、王と重臣が酒に溺れて滅んだと言われます。著者は酒器と食器の比率を計算し、殷以後に酒器は急激には減っておらず、この伝説は、紂王の悪行と供に、勝った周側の宣伝と判断しています。史記の記述を正すこの章は刺激的で面白く読めます。
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