終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて

鈴木 玲子 - 河出書房新社 価格 ¥ 4,095
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終わりなき闇 チェット・ベイカーのすべて

鈴木 玲子
河出書房新社

価格(new/used): 4,095 円 / 3,200 円 より
発売日: (2006-01-13) アマゾン売上ランキング: 349368 位
単行本 / 通常24時間以内に発送
[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 2件

ろくでなし
「…あまりにも長年、麻薬漬けのジャンキーだったために、魂の抜け殻になっていたのね。かろうじて彼にも魂が残っていると感じたのは、音楽を演奏するときだけだった。そこには、はっきりとした二面性があったわ。素顔の彼は、まるで悪魔の化身のように冷酷だった。その彼のどこから、あんな美しい音楽が出てくるのか、理解に苦しんだほどよ」
レズリー・ミッチェルの言葉

チェット・ベイカーというジャズトランペッターの存在など、まったく知らなかった。彼の生涯を追ったこの本からは、チェット・ベイカーは、ろくでもないジャンキーとしか思えない。そしてその印象は決して間違いではないと思う。
この本を読んだ後、彼の演奏している映像をネットで探して見た。My Funny Valentineをプレイする映像があった。たいした音楽好きではないし、ジャズなど門外漢だ。だが正直、いいなと感じた。たぶん70年代か80年代の映像なのだろうが、それほどの年齢ではないはずなのに異様に老けて見える姿(おそらくドラッグの影響だろう)で、椅子に掛け、うつむき加減にマイクに口をくっつけ、うたう歌。やはりうつむいてトランペットを吹くようす。既にろくでなしだと印象付けられているにもかかわらず、いいなあとすなおに思った。音楽と人間性は別かもしれないが、こんなにも狡く、うそつきで、ドラッグの引き起こす多くの醜聞にまみれた人間のプレイを、いいと感じるなんて意外だった。
この本を読む前に、ぜひ彼の音楽を聞いてみて欲しい。
終わりなき闇に星をつける
読んでいて嫌になる。
中学の頃、FMラジオでの”マイ・ファニー・ヴァレンタイ”を聞いて「こんなに憐れみのある声の持ち主はさぞかし優しい人だろう」と思ったのがベイカーを好きになったきっかけだった。しかし、そのずっと後でベイカーのアルバムを数多く聴いて「なんでこの人はこんなにアルバム毎に浮き沈みが激しいんだ!?」と思うほどの玉石混交。

そのワケの一部始終がこの本にある。ヤワで独りよがりで嘘つきでジャンキー。しかも徹底したジャンキー。ベイカーは天使の声と音色を奏でることが出来る安っぽい悪魔だった。徹頭徹尾、ベイカーという男が如何に酷いヤツだったかを延々と400ページも読む苦痛は、しかし、音楽の神の残酷さを聴き手にも思い知らせる。まるでベイカーの罪状をとうとうと読み上げる検察官が書いたような本だ。その罪状を、彼の音の声の罪深さを知りたくない人は読まないほうがいい。絶対に。

僕はと言えば、アニー・レノックスの言葉、「全ての素晴らしい音楽を裏打ちしているのは哀しみと苦しみなのよ・・・」のその意味を再びベイカーのアルバムを聴きながら噛み締める。何度も何度も噛み締めながら、「終わりなき闇」というこの本に、せめて5つの星を灯そうと思った。その闇がマイルズ・デイヴィスの深い闇に比べて、あまりにも薄っぺらいもんだとしても。

なんちて。