枯葉の中の青い炎 (新潮文庫 つ 23-...

- 新潮社 価格 ¥ 420
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枯葉の中の青い炎 (新潮文庫 つ 23-1)


新潮社

価格(new/used): 420 円 / 45 円 より
発売日: (2007-06) アマゾン売上ランキング: 301992 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 3.5 / 総数: 2件

辻原作品、初体験です。初心者の感想です。
 本書の単行本の刊行が、05年1月末。そしておそらく05年5月15日の朝、私はたまたまNHKのBSで『週刊ブックレビュー』にチャンネルを合わせていて、女優の富士眞奈美がこの短編集を絶賛しているのを目にした。それ以来、いつか読もう、いつか読もうと気になってはいたのだが、先延ばしにしているうちに年月が経ち、文庫本も刊行された。安価でもあるし、先ごろ購入して読んだ。
 全体としては、解説の鴻巣友季子も触れているように、物語の多層構造が印象的。「ザーサイの甕」の冒頭に江南園林という造園手法の説明があり、その特徴として挙げられる「園中の園」「正中求変」は、著者自身の方法意識でもあるのだろう。
 その他、私が面白いと思ったのは、例えば「水いらず」の語りの構造。三人称を用いているが、最初のうちは主人公の秋山しか出てこないので、ほとんど一人称小説のように読み進めてしまう。しかし途中に転換点がある。人称トリック、とまで言うと大袈裟だが、うまく引っ掛けられた。
 「日付のある物語」の冒頭、語り手は79年1月に現実に起こった三菱銀行猟銃強盗・人質事件の時点で30歳だったと述べるが、作者自身は45年12月生らしいから、33歳。この微妙なズレは70年安保の時点で大学に在学して学生運動に関わった、狭義の団塊世代という設定上の必要からかもしれない。しかしこの、ほとんど重なりながらも微妙にズレている、というところが怪しい。作品最後の永田洋子、坂口弘、植垣康博といった人々への言及、そして「この物語を亡き妻と二人の息子に捧げる」という献辞にも、その微妙な怪しさが忍び込む。
 表題作では、中島敦とスタルヒンの、縁とも言えぬ縁を知って、トクした気持ちになった。
RPGの選択を明らかに間違ったその結末は?
 夫は10年間、平穏な結婚生活を送ってきた妻に告げる。「付き合って1年になる女がいる。彼女は女子大生でもうすぐ卒業する。去年見合いをして田舎に帰るのできれいに別れるつもりだが、最後の1ヶ月だけ彼女と一緒に暮らしたい。」
 こんなことを突然夫が言い出したら妻はどう答えるだろうか?妻は、期間はぴったり1ヶ月、毎晩9時に電話をかけてくること、を条件に夫の申し出をすんなり了解してしまうのである。
 短編集の冒頭を飾る「ちょっと歪んだわたしのブローチ」は、まるでロールプレイングゲームの最初の分岐で明らかに間違った選択をした際の物語の結末を知る楽しみに似ている。
 こんなことを言い出す夫はいない、こんな答えをする妻はいない.....でも、そんなあるはずのない出来事の行く末を想像するのが物語の楽しみではないだろうか。
 三菱銀行猟銃強盗・人質事件をモチーフにした「日付のある物語」も、“別の目的で銀行の地下に潜んでいた過激派工作員”という架空の人物の視点を仮想することで、現実とはまた違った物語を構築している。
 6編はいずれも、斬新な発想、巧みな手法で、企みに満ちた物語に仕上がっている。ページを繰っている間、密度の濃い空想の時間をたっぷり味わうことが出来るはずだ。