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おかしな男 渥美清 (新潮文庫)
小林 信彦
新潮社
価格(new/used):
700 円 /
530 円 より
発売日:
(2003-07)
アマゾン売上ランキング:
59006 位 文庫 / 通常24時間以内に発送
[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5
/ 総数: 14件
小林信彦しかかけない渥美清という人の物語。
小林信彦が、松竹の山田洋次と渥美清をあわせ、あの『男はつらいよ』をつくらせた仕掛け人であったとは。
小林が博学、万能の人であると同時に、このような裏方役をしていたとは...。驚きの書。
渥美清をどれだけ愛していたか、彼の才能を十分見抜き、生かそうとした著者のこころ暖まる渥美清伝。
●さあ、ここから小林信彦ワールドに入ることが出来た人は幸せである。
渥美清が小林の眼力と筆力によってよみがえる。
渥美清は最高の人により復活される。亡き人を描く最高のお手本。
渥美清のもがきの行方
小林信彦の小説は、私あんまり面白くないのだけど、『日本の喜劇人』『世界の喜劇人』をはじめ、氏が同時代で楽しんだ喜劇やお笑いのレビューは楽しい。
対象におもねらず、自身の体験や印象を率直に、誠実に記そうとする姿勢がいい。保守的な、人情に訴える笑いよりも、シュールでファニーなおかしみを好まれている。
渥美清についてまとめた当書は、特に「男はつらいよ」に至るまでの、本人のあせりやもがき、他の喜劇人への思いなどが、著者の連ねるいろいろなエピソードから深くにじみ出ている。
愚連隊や肺病経験からくる凄みや周囲への不信、カタギの人間関係を遠ざけている様子。
「本質的に脇役だけど役者として主役は張りたい」、山田洋次監督との幸運な出会いとアウトローとしての当初の寅次郎の魅力、勢い。
特に面白かったのは、渥美清がシリーズの定着したころ、寅の将来を‘良寛’みたいになるのではと対談で語っているくだりと、伴淳三郎にイジワルをされていたという件。
これを読むとちょっと笑いにくくなる。後期の「男はつらいよ」(病気で本当につらかった)と伴淳。アジャパー。
肺病持ちの喜劇役者 渥美清
渥美は、森繁を尊敬しモダンや粋に憧れ、試行錯誤を繰り返した一人の才能ある喜劇役者であった。デビュー前の田所康雄ではなく寅さんヒット後の国民的俳優でもない喜劇人「渥美清」の物語を、独特の距離感を保ちつつ詳述している。
片肺がないことは、喜劇役者としての渥美の人生を方向付けた。元来の侠気な性格と相まって、人と付き合わない生活を彼に選ばせ、芸能界の異端として渥美を特徴づける。
自ら異端を持って任じる渥美が、喜劇を愛しながらも芸能界と意識的に距離を置こうとしている著者に惹かれていくのも納得できる。
著者の遺した細かいメモと驚異的な記憶力のおかげで、当時の業界が見事に活写されている。
渥美清の生き方よりも、著者の芸人の観察力と、冷淡と言われかねない芸能人との付き合いのあり方が強く印象に残る。それは同じく著書をものにした横山やすしとの付き合いにおいても同じであったし、「芸能」を愛しながらも「芸能界」を強く拒否した著者の、著述業を営む上での矜持である。
渥美と横山は性格も芸風も全く異なるが、2人の天才は孤独で不安で、芸能界や取り巻きへの不信が根本にあった。だからこそ芸能界と距離を置く著者の意見を必要としていた。また著者が見巧者で喜劇の最良の理解者であることを、本能的に感じ取っていたのだろう。
著者の横山やすし伝と併せて読むことで、著者の目から戦後日本の喜劇史を体感することができる。
寅さんではなく役者渥美清という人物を実感できる本
私は、若い頃フランキー堺のファンであり、年中行事になっていた「男はつらいよ」の面白さはわからなかった人間である。しかし、渥美清が(役柄である「寅さん」とは異なり)大変な読書家であるという噂を耳にしてからは、渥美清という人間には常に興味を持ち続けていた。彼は実際にはどのような人物であったのか。例えば、読書に何を見いだし、いかに活用したのか。折りに触れて渥美清関係の文章を読んでいたものの、人物像としてしっくり来ず、謎は深まるばかりだった。
この本は、昭和36年から渥美清と接するようになった強記の著者が、折々の接触の際の渥美清とのやり取りを軸に、当時の業界状況や人物評、作品評なども付け加えて、役者渥美清というものを感じることができるようにしたものである。接触と言っても、業界が違うという分を守ったべたべたしない接触の仕方であるが、渥美清も著者も尋常ならざる洞察力の持ち主のようで、会話や著者の感性から感じ取れるものは大きい。私自身もこの本を読んで初めて渥美清の人物像を掴むことができた。
詳しくは本書を読んでいただきたいが、キーワード的に書けば、文学青年だった兄の喪失と片肺飛行、人間不信と洞察力で近寄りがたい男、強烈な自信と上昇志向と同時に危険な過去と奇妙な諦め、生き方の話、「こいつ、さしずめインテリだな」というインテリへの想いと大変な努力家、メンター的な森繁久彌の存在が挙げられる。
読書と生活の糧としてのルーティンワークという点でスピノザ的なものを想像したのは私の全くの勘違いだったが、今となっては珍しい芯のある男の話であった。
巻末の著者との対談で小沢昭一が言うように、これだけの迫力をもってねちっこく書かれて渥美清も幸せだろう。
程よい間合い
本来、評伝は対象の人物にかなり深い関係があるか、思い入れが
あって書けるものであるが、著者のスタイルはそのどちらでもない。
何度かの邂逅の記憶、関係者のコメント、当時の情報から渥美清の
人物に迫る。そこから見えてくるのは役者渥美清(本名:田所康雄)
であり車寅次郎はその仮象である。本書を読んだ後で、渥美清主演の
「男はつらいよ」以前の映画作品を見て欲しい。そこに見られるのは
いずれ車寅次郎に結晶する人物かも知れぬが、車寅次郎よりも危険な
類の男であることがわかる。これが「男はつらいよ」以前の渥美清と
いう役者にマッチすることを監督たちは見抜いていたのだろう。
しかし、著者の渥美清とのつかずはなれずという間合いがこの場合は
成功している。確かに渥美清と寅次郎は別のものであったかもしれな
いが、結局、渥美清こそが車寅次郎の仮象になっていったとも言える。
渥美清=寅さんの既成品のイメージは一瞬消えてしまうかもしれな
いが、そこからまた読者にとって独自の新鮮なイメージが立ち上がっ
てくるはずである。
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