檸檬 (新潮文庫)

- 新潮社 価格 ¥ 420
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檸檬 (新潮文庫)


新潮社

価格(new/used): 420 円 / 1 円 より
発売日: (1977-12) アマゾン売上ランキング: 31930 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 13件

ゆっくり読みましょう
 小説を読むとき、著者によって読み方が違う。急いで先へ先へと読み進めるものもあれば、じっくりと吟味しながら読むものもある。梶井は間違いなく後者の作家だ。一文字一文字味わうようにしてゆっくりじっくりと、また繰り返し読むことによって小説の持つ味が滲み出てくる。これを速読しようものなら、何ら引っかかりのない話が残るだけである。例えるのなら埴谷雄高「死霊」の表面にあるストーリーをダイジェストで追いかけるようなものだ。折角読むのなら、深く吟味してもらいたい。
 収録作は檸檬、城のある町にて、泥濘、路上、橡の花、過古、雪後、ある心の風景、Kの昇天、冬の日、桜の樹の下には、器楽的幻覚、蒼穹、筧の話、冬の蠅、ある崖上の感情、愛撫、闇の絵巻、後尾、のんきな患者、となっており、梶井の有名所はあらかた収まっている。
 この新潮社版ではダーク梶井とエキセントリック梶井が割と明瞭に分かれており、読んでいてい楽しい部分である。
 あと、解説に梶井の顔写真を載せておいて欲しかった。
梶井基次郎そのもの
この人は格好をつけない。演じない。うそをつかない。夢を見ない。
そして、愛想笑いができない。
いや、会ったことないんですけどね。
多くの人間にとって、人生の真っ当な順序とは、生に始まり死に終わる、である。
しかし梶井さんは、死の中で、生を謳歌している。生を苦渋している。
そんな人間は、他人にどう見られるかなんて、かまっちゃいない。
自分という生に手一杯で、必死なんだ。
だから「檸檬」をはじめとする作品群の中で、
自身の核を、ためらい無く晒せるのだと思う。
それは、生命そのものを描くという行為で、
美しい響きとなって読者の心を震わせ続ける。



長編散文詩
 日本の文学の中でも もっとも「神経」に訴えてくる作者であると思っている。晩年の芥川龍之介も 同様の趣であったが 梶井基次郎の場合には それに 独自の「美学」が付け加わり 物狂おしく絢爛たる世界が繰り広げられる。

 こういう作者は やはり長編は書けないのだろうなと思ってしまう。資質的には 短編小説というよりは 長編散文詩という位置付けの方が正しいのではないかと思う。

 それにしても 時として文学の才能は その人を磨耗させると思わざるを得ない。梶井基次郎も いわば夭折したわけだが その死因が結核であったのはたまたまであり 本質的には 彼の文学が彼を食い殺したのではないかと思わせる。それほど 切れ味のある作品であり その刃が書いている本人に向いているかのような 妖気に満ちている。

カッコ良すぎます
カッコ良すぎます梶井基次郎。肉体も精神もボロボロだけど、孤高の魂は飽くまで気高い。
理科系資質が生んだ奇跡の詩的作品群
 教科書に載っていた「冬の蝿」が作者との出会いだったのだが、同様に習った「城崎にて」に似た印象を最初持ったものだった。しかし、この作品集を読んで印象は一変した。基本的に「写生文」の職人だった志賀氏とは根本的に何かが違うことに気がついたからだ。「蒼穹」に見る暗黒の青空も「闇の絵巻」での暗闇の中に消えていく男の姿も、全ては彼の大脳の中で変換された情景描写なのである。また、「ある崖上の感情」の覗きという普通なら避けて通る題材を借りて、性と死という普遍の真理を同時に描いてみせている独特の感性、さらに使われている言葉が当時の文学作品と一線を分かつユニークなものが目立つ。「紡錘形」、「瓦斯体」などなど。これらも含めて彼の独特の感覚は潜在的に持っていたとされる優れた理系の資質によるところも大きいのではないかと思える。

 桜の季節がやってくるが、また「桜の樹の下には」を思い出すのだろうか。憂鬱は御免被りたいが、どうやら無理のよう。全く罪な作品だ。