弥勒世(みるくゆー) 上

- 小学館 価格 ¥ 1,890
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弥勒世(みるくゆー) 上


小学館

価格(new/used): 1,890 円 / 979 円 より
発売日: (2008-02-21) アマゾン売上ランキング: 48813 位
単行本 / 通常24時間以内に発送
[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 5件

日本ハードボイルドの金字塔
 上下巻で1200ページという大作で、一部きわどい
叙述もあるハードボイルドです。約40年前の本土復帰
直前の沖縄の現実に向き合うつもりがないなら、読む
のはやめたほうがいいでしょう。
 5日間のストを構えた全軍労の幹部が、こう言ってい
ます。「このストは(中略)やっても無駄だが、やらなけ
れば自らが救われない」と。これに似たセリフ、楡周平
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・東京』で安田講堂に
立て籠もった学生も言っていましたっけ。

 閑話休題。昨秋、小阪修平氏を偲ぶ会に参加(その場
には『叛乱論』の著者や「矢吹駆シリーズ」の作者の姿
もありました。)した時、司会者がしきりに「私たちは還
暦を過ぎようとしているが、このまま朽ちていいのか。」
と問うていました。つまり、大多数が辛うじて残り火を
絶やさずに生きてきたということなのでしょう。だから、
大学での挫折の後、権力の中枢を狙うというお話しな
ど、いかにも作り過ぎで笑止という他ありません。『再生
巨流』、『ラスト ワン マイル』と快調に飛ばしてきて、ちょ
っと調子に乗りすぎましたね、楡さん。

 しかし、1969年の安田講堂攻防戦と1970年のコザ
暴動、同時期の話題をとりながら、本書の主人公の世
界をぶち壊すという思いに迷いはありません。主人公を
頼る少女の惨死や理想に生きる恋人の自殺、そして主
人公自身の殺人行為など下巻は凄惨で殺伐とするきら
いもありますが、人々の暴発と主人公と仲間の米軍基地
へのテロ行動がクロスするクライマックスまでストーリー
は疾走してやみません。ラストでは、『仁義なき戦い 広
島死闘篇』(深作欣二)での特攻くずれ(北大路欣也)の
最後を思い出し、その迫力に五臓を貫かれました。
沖縄返還のオモテを背徳と裏切りで殴り倒すウラ社会ハードボイルドエンターテーメント
裏社会の暗黒を舞台にニヒルなアンチヒーローを描くハードボイルド小説。新宿歌舞伎町を舞台にした「不夜城」を読んだときの衝撃とこの作家の取材力と筆力に対する驚嘆の思いが忘れられない。自分が70年代初頭の高校時代を過ごした新宿の昼と夜には親しみがあったし、やがてその新宿の歓楽街に韓国人や中国人が浸透していく変遷も見てきたからだ。

同じように裏社会の暗黒とニヒルなヒーローたちを描いたこの小説は、その舞台を70年の返還前後の沖縄現地に移している。確かにこの時代は公民権運動という人種対立とベトナム戦争の時代でもあって米兵もすさんでいた。大麻やヘロインなどの麻薬、売春、強姦、その結果としての母子家庭や混血孤児、アシバーと呼ばれるヤクザ、などの暗黒世界を、表で起こった反基地闘争などの歴史事象を対比させながら描ききっていて、ぎしぎしと音をたてるほどだ。ここ10年ほど沖縄をビジネスで往き来した程度の自分には、基地の存在や、差別と逆差別、かたくなな身内意識など屈折した感情は垣間見たものの、沖縄はどこまでも美しい自然が豊かで素朴な人情があふれる南国でしかない。そうした表しか知らない脳天気な現実感が、この圧倒的な筆力に吹き飛ばされそうだ。

ヒーローはCIAと反戦運動の二重スパイという背徳のなかで蠢き、孤児施設でともに育った幼なじみがヤクザと組んで米軍の銃砲火器を持ち出し秘匿している事実をつかむ。ふたりの幼なじみは、それぞれに抱く黒々とした秘密と野心が衝突し、嫉妬し、その謎を巡って疑心がきしめく。その偽悪的なかけひきの緊張と自己破滅的なテロルの臭いに思わずむせかえりなからも一気に読み進んでしまう。
600ページにも及ぶハードな前編だが、読み応えあり。
上下2巻に及ぶ長編小説を読む時、些か二の足を踏んでしまう。それは、ごく少数の幸福な出会いを除いて、やはり読了するまでの長い道行が頭をよぎるのと、仮につまらなかった際、既に後編を購入する為費やしてしまった金銭、あるいは、購入せずとも物語の結末を知る事なく小説に関わってしまった労力の無為について考えてしまうからだ。で、今作はどうか。馳星周の作品は、「不夜城」を始め、かって面白く読んだが最近の作品には今一歩乗れず。600ページを超える長編と言う事もあり、取りあえず、前編のみを購入してみた。
奄美大島から一旗揚げようと琉球の地に渡った男、大和(日本)からも沖縄からも差別され、望みはアメリカの市民権のみと言い放ち、どんな汚い仕事でもする。やまとーんちゅ、アメリカー、うちなーんちゅに対する憎悪を持ち、搾取される側からする側に立つとの確信的な思いを持つ主人公。ベトナム戦争、米軍基地、反戦運動、本土復帰、利権と革命、リベラルな本国左翼勢力の権威主義、コンプレックス、憤怒、鬱屈感、様々な思惑が絡み合い、騒乱を誘発する様なねっとりとした熱波、暴力的で猥雑なムードが充満する濃厚でピカレスクな1冊。
60年代末の「沖縄」を照射した社会的な意味合いも感じるが、革新勢力の欺瞞を哂い、決して情動に流されない主人公の心の奥底にあるニヒリズムに煽られる。
筆者の「沖縄」への思いと、露悪的な主人公の生きザマを確認すべく、後編の購入を決めた。
強い作品と思います
まず何よりも「強さ」を強く感じさせられる作品です。
理由は、主要な登場人物ばかりではなく、脇役の脇役とも思われる登場人物までもが、客観的に見れば、過剰な意志を、主体的に見れば、己を乗り越え、己に先んずる意志を持っている為です。従って本作品は、ほとんど実存主義的小説ともいえます。
そしてこのような「強さ」は、登場人物のみならず作家の姿勢にも強く感じられます。というのは、物語の展開上何ケ所かとても情緒的に美しい場面があります。いってみればここぞ泣かせどころという場面です。しかし筆致はあくまでも過剰なほど抑制的です。むしろ泣かせない、という強い意志を感じる程です。作家の矜持です。
このような世界には当然のことながら調和はありません。一瞬漆黒の雲の彼方に一条の光が輝こうとしますが、たちまち過剰な意志の衝突によるハレーションがこれにとって代わります。そして酷使された肉体は滅びます。
しかし、勇気というようなものが後に残されているようにも思えます。
本作品を読了し、重い感動を得ることができました。
沖縄好き必読の書!!
沖縄がまだ琉球だった、アメリカ統治時代の最後の最後を、現実に即して描かれたフィクションだけどノンフィクションに近い歴史小説でもあります。当時の沖縄の様子がはっきりと脳裏に浮かんできて、あっという間に引き込まれてしまう、馳ワールドの神髄と言ってもいい小説です。この本を買ってすぐ、沖縄の友人のおばあちゃんにこの時代の事を聞いたら、まさにこの小説そのままでした。クライマックスシーンは、多少脚色されていますが、「コザ騒動」として実際にあった話です。カバーの金網模様もかっこいいですね。まさに、アメリカ軍基地の金網で分断された現代の沖縄を象徴しています。