23分間の奇跡 (集英社文庫)

青島 幸男 - 集英社 価格 ¥ 500
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23分間の奇跡 (集英社文庫)

青島 幸男
集英社

価格(new/used): 500 円 / 1 円 より
発売日: (1988-07) アマゾン売上ランキング: 24171 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 4.5 / 総数: 10件

洗脳
 面白い.さらっと読める分量なのに,話をあえて分かりにくくしている所が良い.
 古いタイプの,型にはまった古い先生に取って代わる若くて魅力的な女の先生.彼女は子供達の様々な問いかけに誠実に答え,今まで疑問を許さなかった習慣にあえて疑問を抱かせる.斬新な方法で子供たちを啓蒙した素晴しい先生かと思わせておきながら,ラストでそれは覆される.
 これがアメリカの作家の書いた作品ならばきっと二人の先生を入れ替えて登場させただろう.その方が話がわかりやすいし.極めてハリウッド的な凡作となったことだろう.
やさしく見えてかなり難しい物語
 青島幸男氏も訳者あとがきで指摘しているように、恐らく、この物語は、子供が教
育によって簡単に洗脳されてしまうことの恐怖を述べているのと同時に、型にはまっ
た古い教育に対する批判的視点を含んでいると思いました。
 作者のあとがきを読むと、作者が物語を書いたのは、忠誠を誓うことの意味も教え
ずにフレーズだけ暗誦させられた娘の体験がきっかけとなっているとのことです。

 でも、この2つのテーマがなんとなくわかりにくい感じで書かれています。

 新しい先生の言っていることは、「制服」の話と、「わたしたちの指導者」の話以
外はほとんど、古い先生より教育としてより好ましいように思えます。一人一人の子
供たちの名前をちゃんと覚えるか否か、形式的に「忠誠を誓う」フレーズを覚えるだ
けか、その意味を考えさせるか、神に祈るということを疑ってみるか、それを許さな
いか、子供の質問に対して誠実に向き合って答えるかどうか...。作者の後書きを読
み、作者の願う教育を体現してるのは基本的に新しい先生(全体主義的なところは除
く)に思えました。それに、子供たちに健全な批判精神が育つのは、新しい先生の教
育においてではないでしょうか。

 でも、洗脳として扱われているのは...。

 もし、新しい先生のような教育をしていたところに、古い先生のような人がやって
きて23分間で子供を洗脳したなら、わかりやすかったと思いますが、逆の構成になっ
ているために、ともすると、新しい先生の教育が悪いもののように読み違われる可能
性もあるのかもしれません。

 なんだか、この小説は、かなり難しい構成になっていると思いました。

 作者が、わざと新しい先生と古い先生の教育内容を入れ換えた理由はなんなのでし
ょうか?洗脳の巧妙さを表現するために部分的に妥協してこういう構成にしたのか、
どんな教育理念も常に個々が自ら考え直していくべきだということなのか、作家とし
ての遊びなのか...。
洗脳の恐ろしさを短く強烈に訴えてくる一冊
本は短いが、感想は尽きない。おそらく第二次大戦下のドイツ軍の侵略下であろう、ある町の小学校に「制服をきた若い女の先生」が新しい教師として赴任してくる。先生は占領下の子供たちが占領軍に対して持つ疑問にひとつひとつ誠実に答え、よい大人になるにはどうすればよいかを子供たちの理論で教えていく。授業が始まって23分後、子供たちは全員「自分の両親はふるいのだ 新しい時代の良い大人になろう」と心から思うようになる。ある国を掌握したければまず幼い世代の教育からはじめよ、とよく聞くが、子供たちの無邪気で純粋な心を掌握していく過程が空恐ろしい。教育で世代を分断する恐ろしさを簡潔にやさしい文章でまとめた本。ぜひ多くの人に読んで欲しい。
イデオロギーの確立とはかくあるもの
 一般大衆に対して、有効なイデオロギーの刷り込みはかくあるべきという内容です。初版が出た時に、真っ先に買って読みました。

 「歴史の終わり/フランシス・フクヤマ」でも論じていましたが、大衆支持のイデオロギーとはトップダウンではなく、大衆が本来持っている共感できる要素を再構築したものだと。ここでの生徒たちが本来持っている共感できる要素を、新任の先生は見事に融合し、そこから新しいイデオロギーの構築を目の前で行い、生徒自ら取り込む流れを作ることに成功しています。
 ほとんどの場合、一般大衆が持っている共感要素は、どのイデオロギーの基礎にもなりえます。大切なのは、イデオロギーを押し付ける/見せ付けるのはではく、大衆が共感・共有できるものを如何に見つけ出すか、それをわかり易く見せるかになります。

 この小説はそれを見事に表現して、一般大衆のピュアな感覚を生徒に置き換えて、私たち読者に啓示しています。
 果たして私たち一般大衆は、何が幸福なのでしょうか?私たちが信望しているイデオロギーは、果たして確固たるものなのでしょうか?旧国であれ新国であれ、安全に、経済的に生きることが出来ればそれでよいでしょうか?それとも安全を捨ててでも、旧国のアイデンティティを守ることで精神的に安住すべきでしょうか?
 多分、どちらも真理でしょうし、どちらの感覚・感情も私自身持っています。どちらが正しいか、それは永遠に到達できないものかもしれません。

 この本が表現する内容は、幾重の層にも渡っていると思います。生徒が疑問も抱かずに新しい思想に寄り添って行く恐怖、しかし、それはもしかしたら正しいことかもしれないという疑問、この相反する2つの考え自体が共存するのが人間なのかもしれないという気持ち。
 「恐怖」「取るに足らないこと」「矛盾」幾重もの解釈が折り重なる本です。読む時代、その時の自分、経験したこと、いろいろな素地が、幾重もの解釈を導き出しているのかもしれません。自分に問うため、この本を折に触れて読むとよいかもしれません。自分の経験、自分の考えを映し出す鏡のように。

読むのに23分もかかりません。
~原書のタイトルは「Children's story...but not just for~~ children」
解りやすい文体で子供向けのようにも見えますが、内容は大人向け。戦争に勝った国からの教員と、負けた国の子供たちのやり取りを通して、子供をコントロールすることがいかに容易いか、そしていかに恐ろしいかがわかります。
全文読み終わるのに23分もかかりませんが、内容はとても濃く、考えさせられる本です。~