照柿(下) (講談社文庫)

- 講談社 価格 ¥ 650
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照柿(下) (講談社文庫)


講談社

価格(new/used): 650 円 / 1 円 より
発売日: (2006-08-12) アマゾン売上ランキング: 23803 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 3.5 / 総数: 3件

色と気まぐれに彩られた不毛な作品
意匠不明な上巻に続く下巻だが、冒頭の嫉妬に駆られた合田が画策の上、達夫の会社を見に行くシーンで呆れて期待が萎む。僅か十数年の宮仕えで歯車から外れようとしている人物を、このような長編小説の主人公に据える必要があるのだろうか。致命的なのは、合田の行動・心理に作者が合理的な説明を与えられない点である。「だから文学的なんだ」と言う言い訳は通用しない。日々の暮らしの中で、自らの努力が報われない徒労感、他者との隔絶感、彼我の持つ能力と享受する果実との落差感、男女の間に横たわる深い溝と連帯感、生きる事の意義への懐疑の念、現実感と非現実感の境目の無い繰り返し。これらは既に書き尽くされているテーマで、合田、達夫、美保子という全て心神喪失状態と呼べる人物達を陰湿にこねくり回して作者は如何なる新しい物語を紡ごうとしているのか。

作品の進行も、合田とヤクザの博打、達夫の工場の模様、合田と美保子の邂逅、事件に対する胡乱な捜査状況、老作業員の突然の死と意図不明なランダム性に満ちていて、構成力が感じられない。この中では、不良上がりの達夫が一番まともな人間に思えるのは作者の意図通りなのか ? そして予定調和の達夫による殺人。本の帯に「現代の「罪と罰」」とあるが、ポルフィーリィ判事に騙されている。明らかに「達夫=スメルジャコフ」であって、画廊主殺しは間接的な父親殺しなのだ。最後に到って、合田の美保子に対する気持ちが達夫への嫉妬から来ていると悟るのは強引だし、美保子が哀れである。

最後に達夫の逃亡先の大阪が再び舞台となり、山吹、橙、臙脂、赤銅、青と"色"が再度強調される。だが、美保子の負傷は余計だろう。結局、合田の心の不安定さを描いただけの物語となってしまった。それにしても、達夫は作中でご都合主義的に扱われ過ぎている。最後まで、色と気まぐれに彩られた不毛な作品。
居住まいを正して読め。と著者がいっているような気がする。
文庫化に際し大幅な加筆修正がなされているのだが、単行本を読んだのがかなり以前であったので初読のつもりで読んだ。しかも、高村薫の作品は軽い気持ちで読むことができるような内容ではないばかりではなく、著者自身も読者に居住まいを正して読めと言っているような気がしてならないので、気合を入れて読んだ。

重苦しい。暗い。救いようがない。そんな言葉ばかりが浮かんでくる。硬質な文体と相俟ってその世界に引きずり込まれていく。ストーリーは覚えているはずなのに本を閉じることができずに、ほぼ徹夜で上下巻を読み終わってしまった。

高村薫は自身の作品をミステリーではないしそれを書いているつもりもないと語って(書いて?)いる。では、どのジャンルなのかと考えてみても思いつかない。純文学の色合いも濃いがストーリー物として読んでもイッキ読みが可能な作家だ。高村薫とはジャンル分けすることのできない孤高の存在なのかもしれない。

それにしても「照柿」というタイトルは素晴らしい。これは著者の造語ではなく日本の伝統色の名前だが、作品全編を通じる色彩と熱を見事に表している
まさに真夏に読むべき本
単行本出版から12年もかけてようやく文庫化。
「マークスの山」の時もそうでしたが、大幅に加筆修正されてますので、既読の方もぜひ。(以下は未読の方向けのレビューです)

一言でいえば、非常に暑苦しい本です。
狂ったように暑い夏のある日、18年ぶりに再開した2人の男。
心と体をすり減らし、なお歯車にもなりきれない歪んだ刑事と、圧倒的な芸術への渇仰を持ちながら、熱処理工場で汗まみれになるその幼なじみ。一人の女を巡って二人の人生が再び交錯することに。
それそれの人間が背負った過去、家族という名の他人、他者の才能への嫉妬、繰り返される日常の疲労と夏の暑さ・・・そうしたドロドロした何かが重層的に積み重なっていき、ある意味唐突に悲劇が起きて、物語は幕を閉じます。

上巻からうねりのように繰り返される「照柿色」のイメージが、この下巻の終盤には、圧倒的な迫力、現実感をもって胸に迫ります。

現代の『罪と罰』などと評されていますが、文庫版解説にもあるように、ドストエフスキーでたとえるなら、「白痴」や「悪霊」の方が雰囲気が近いでしょう。