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暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫) |
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暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)講談社 価格(new/used): -- 円 / 750 円 より 発売日: (1989-04) アマゾン売上ランキング: 230471 位 文庫 / 在庫切れ [ユーザーによる評価] 平均評価: 5.0 / 総数: 4件 粘着性を愛す野間宏の文章の魅力は、読んでいる者の脳髄に、まさに「ぺたぺた」と貼りついてくる独自の粘着性にある。一見すると悪文だが、この文体でしか表現しきれないものは多く、それはこの野間宏の代表作を集めたこの本のどのページを開いてみても画然と思い知らされるであろう。粘着派は、野間宏の名を深く胸中に刻印せねばなるまい。 「暗い絵」について『暗い絵』に限ってコメントします。この作品の難解さには痺れる程の魅力がありますが、それは論理の難解さではなく、感情として否定的になってしまう様式への私達の不慣れさだと思います。しかしながら、主人公のその閉塞的な思考様式に、無条件に美しいと思えるものがあります。象徴を駆使した技法が貫かれているのは、文学史的にも価値のあることだと思います。 今もう少し説明を加えるべきだと考えてみましたが、しかし、どうも美しい、という言葉以外に説明の仕方が見つかりません。解釈をすれば傷つく小説なのだという気持さえ湧き上がってきます。暗くて、美しい小説です。 顔の中の赤い月男と女の真実の結びつきへの懐疑をとりあげ且つ、戦争の体験がどんなに深く個人のなかに食いこんでいるかが一層強く問われている作品。 主人公は戦争という極限状況のさい、自分を守るために戦友を見殺しにしたという暗い体験がある。彼は或る未亡人の、未亡人が抱えた根源的な苦しみのにじみでた美しい顔に強く惹かれる。しかし彼は人間らしい愛を否定されなければならない。「自分の生存のみを守っている人間が、どうして他人の生存を守ることができよう」二人を近づけたのが戦争であれば、二人を結びつけないのもまた戦争である。『暗い絵』ほどの晦渋さはなく、これを読んだ人にとってはいつまでも忘れがたく胸に残る小説である。 暗い絵暗い絵の冒頭は、第一次戦後派の心情を象徴したものとして説明の要がないほど有名である。ブリューゲルの化物の絵が、作品全体を象徴する。主人公にとって重要な問題は「何物かに成ろう」ということであり、そのためには自分を消滅させずに保持する論理を発見することである。そして彼はどの学生運動グループにも与せず「殉教者でも背教者でもない」第三の道を「エゴイズムに基づく自己保存の臭い」を避けずに貫いてゆくことを決意する。絵に表された暗黒の中世と、絶対主義天皇制下の現実とを、象徴的手法によって架橋する作者の想像力のあり方が私たち読者の胸をうつのである。怪物的に晦渋な作品であるが、野間の全ての可能性を収蔵した宝の小箱であるがゆえの重みである。 |