塩の道 (講談社学術文庫 (677))

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塩の道 (講談社学術文庫 (677))


講談社

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昔の生活の知恵を知る
信濃などの山の中でも当然のことながら塩が必要とされた。その塩を運ぶ道は街道ではなくそれに沿った細い道が使われている。なぜか。牛で運ばれていたからである。途中で草を食べる必要があったのだ。等々、綿密な民俗調査から明かにされる昔の人の生活の知恵の数々が次々と出てきてなかなか楽しかった。例えば塩サケなどは保存のためだけではなく、その塩を必要とされていたのだということ。あるいはニガリのある「悪い塩」をわざわざ買い、そのニガリを抜く事で山中の人々は豆腐を作るためのニガリを確保していたのだということ。

長い歴史の中で「道を開く」という事はどう言う事なのか。その道が必ず海に通じていたという事はどう言う事なのか。「道も一つの遺跡である」街道などの当時のクニが作った道だけでなく、民衆が作ってきた道をどう見るかという視点をくれたことが今回の収穫であった。

宮本民俗学は柳田民俗学とは違い、綿密な民俗調査のあとがはっきりしていたり、歴史文書資料の活用など、学術性が高いところに特徴がある。しかもその眼差しは常に民衆の立場に立ち温かい。それは彼自身が若い頃からずっと自分の足で日本中をくまなく歩いてきた成果なのだろうと思う。

現在そして未来をつくる民族の由来
「民俗採訪」という言葉があるそうです。民俗学者の中でも随一と言われるほどのフィールドワーク、民俗採訪をこなし、その経験をもとに、日本人の生活の基層に流れるもののありようを探り続けた著者晩年の講演集で、三つの異なるテーマが採録されています。中でも三番目の「暮らしの形と美」が最もとっつきやすく印象深い。

日本列島というカプセルの中に、異なる系譜をひく人々が数次にわたって流れ込み、様々な文化をもたらし、日本の風土に適応していくための工夫・改善を繰り返す中で、日本の社会が形作られていく様が、いくつかの事例をもとに素描されます。環境の違いから来る地域性が産業の発達を促す一方、その交流によって、ネットワークが形成され、国としてのまとまり・民族としての一体感が形作られ、強化されていく。長い年月に繰り返されるこうした生活における適応が、私たちのデザインや色における美意識の基底をなしていることも知れます。トヨタに代表されるカイゼンも、ごく自然に我々日本人のDNAとして理解されます。推論であって、荒い内容ですが、色々考えさせられます。ちょっと日々の生活を離れ、歴史的文脈の中から、自分の血肉を形作る日本人の民族性に思いを馳せるのも良いものです。

歴史雑学本を買うよりは、本書を。
表題にもなった「塩の道」と、「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」、そして田村善次郎氏の解説という四部から構成されている。
表題の「塩の道」は、長野・岐阜周辺の山間部において、人々が必需物資としての「塩」を入手するためのドラマを描く。余談として語られる、近江周辺の製鉄技術伝播のくだりはとても興味深かった。

ただ、史学界ではほぼ否定されている江上波夫氏の騎馬民族学説に依拠するなど、専門の歴史学者ではない私から見ても学問的に誤っていると断定できる部分が、本書に散見される(初出が2、30年前であることを考えると仕方ないのかもしれないが)。しかし、著者のやさしい語り口調と博識には、それを補って余りある魅力がある(村の古老の昔話のようだ)。読み物としてかな!りお勧め。