プラトーノフ作品集 (岩波文庫)

А.П. Платонов - 岩波書店 価格
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プラトーノフ作品集 (岩波文庫)

А.П. Платонов
岩波書店

価格(new/used): -- 円 / 555 円 より
発売日: (1992-03) アマゾン売上ランキング: 159628 位
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[ユーザーによる評価] 平均評価: 5.0 / 総数: 4件

埋もれていてはいけない作家。
荒涼とした砂漠の叙情的な描写と、温かみのある人間描写、希望と諦観の入り乱れた物語の展開。総合してこれらの作品はとても美しい。最も心に残ったのは、やはり『ジャン』か。
ラクダの内臓のあたたかい手ざわりだ。
とくに、ジャン。ジャンを読んで満ちてくる気持ちは、砂の底からひっそりと湧き出す水に似ており、身体の奥からしみ出してくるものだ。だから、ときどき文字がにじみ、そこではじめて涙ぐんでいることに気づく。私はなにか重大な勘違いをしていたのか、彼らはけっしてしあわせになれない、なぜならしあわせになるやりかたがわからないから、という結末だと信じ切っていたのだが、そうではなかった。だって、彼らの出発は、それぞれのしあわせをつかみとるためのものにちがいないのだから。べつの版で、満ち足りた共同体がつくられるという結末もあるらしいが、さいしょに書かれたこの結末ほどすばらしいものがあるだろうか。彼らはやはり人間であって、ひとつの円にそって死ぬまで歩きつづける羊たちとはちがっていた。胸の奥で鼓動している心臓のあたたかみ以外にもつものがなにもない彼らをみて、もっとも美しい民族ではないかと思いたくなるのは、かれらが空を飛ぶ鳥、地を這う亀たちとおなじだからであるが、痩せた体の奥底にしまってあった幸福になるつもりのある魂――人間がもつ義務があるもの――が、暖炉と食べ物とながい眠りとによっておっとり目を覚まし、それから起きあがる。
『粘土砂漠』『ジャン』が素晴らしい
『粘土砂漠』『ジャン』はいずれも中央アジアの砂漠を舞台に少数民族の極限状態を描いているのですが、その独創的な作品世界と人間造型は息を飲むほど衝撃的で、世界に誇るべき屈指の名作だと思いました。前者にはやや小説としての作為が見えますが、欠点というほどでもありません。このような瑕瑾を認めるのは、あるいは読み手の主観によるかも知れません。
『三男』『フロー』『帰還』は旧社会主義体制との微妙な関係が主題になっています。しかしこちらは、例えばソルジェニーツィンの諸短篇から比べても、あまり創造性のある作品とは思えませんでした。検閲に屈したのかどうか分かりませんが、冒頭二作で発揮された著者の良さがあまり出ていません。それでもこの中では個人的に『三男』が好きです。
星の数は作品集全体としての評価です。『粘土砂漠』『ジャン』のためだけに購入されても損はないと思います。
もっと知られていいはず
作者プラトーノフは、批評家アレクサンドル・ヴォロンスキイの主催した雑誌『赤い処女地』などに寄稿していた作家です。『赤い処女地』にはヒューマニスティックな作家が集まりましたが、プラトーノフも人間に対する細やかで温かい視線をもった作家で、ソヴィエトの体制に対する批判・懐疑を隠そうとしませんでした。そのためヴォロンスキイ同様、体制から抑圧されて不遇な一生を終えます。
本書には、政治と人間の幸福の関係を追及した傑作『ジャン』などが収められていますが、いずれも心理描写が細やかで読ませます。悲しみと強い意志が一体となった作風はシニシズムに曇った私たちの心を揺さぶらずにはいません。